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​ナウシカのフィルモグラフィー#2
 

映画という芸術は、感性を揺さぶり、想像力を静かに呼び覚まします。その力は、ピラティスにおいてもまた、かけがえのない素質です。

ここに並ぶ映画は、人生とは何かを説明するものではありません。

むしろ、説明しきれない部分をそのまま抱え、それでも生きていく人間の姿を静かに描写しています。大きな声では語られず、感情を煽ることもありません。でも、観終えたあとに残る感覚は、思いのほか長く体に留まります。

「どう生きるべきか」ではなく、「どのように在り続けるか」を静かに問いかける作品をまとめました。

映画は答えを与えない。

グリーンブックのワンシーン

​おすすめの映画

  

PERFECT DAYS / 2023 

 

東京で清掃員として働く男・平山。
彼の一日は、ほとんど同じ形で繰り返されます。目覚め、仕事へ向かい、音楽を聴き、本を読み、眠る。その反復は、効率や成果を求める現代社会の時間感覚とは明らかに異なるリズムを刻んでいます。平山は多くを語りませんが、彼のまなざしは常に世界に開かれています。

木漏れ日、古いカセットテープ、コーヒーの湯気。そうした取るに足らないものを、彼は一つひとつ丁寧に受け取っているのです。

“今度は、今度。今は、今”

作中では「幸福とは何か」を説明しません。
ただ、こうした生き方が“可能である”ことを、静かに提示します。

​パーフェクト デイズ

​グリーン ブック

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GREEN BOOK / 2018

 

1960年代のアメリカ南部。黒人ピアニストと白人運転手。立場も教養も価値観も異なる二人が、同じ車に乗り、同じ時間を共有する。

育ちも立場も、価値観も違う二人は、何度も衝突します。でも、映画が描くのは、理解し合う瞬間ではなく同じ時間を過ごすことで相手の存在に慣れていく過程です。車内での沈黙や、食事の癖、小さな選択の積み重ね。そうしたものが、関係の温度を少しずつ変えていきます。

 

“The world is full of lonely people afraid to make the first move.”
—— この世界は、最初の一歩を踏み出すのが怖い孤独な人間であふれている。

​​

それは時代の台詞ではなく、社会に息づく観察の一文です。

​幸せのちから

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The Pursuit of Happyness|2006

仕事も住む場所も失った父親が、幼い息子とともに不安定な生活を続けていく。
作中では、困難は一時的な試練ではなく、日常として存在しています。

明日が良くなる保証はありません。それでも彼は、目の前の選択を一つずつ引き受けていきます。
希望は未来の約束ではなく、「今日をやめない」という態度に宿っています。

成功の物語でありながら、そこに至るまでの時間の重さが丁寧に描かれています。

“Don’t ever let somebody tell you... You can’t do something.” (*)
—— 誰にも、お前には無理だなんて言わせるな。

それは夢を語るための言葉ではなく、現実に押し潰されないための静かな抵抗の言葉。

(*)この言葉の後に “Not even me.” と続きます。

​マンチェスター バイ ザ シー

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Manchester by the Sea|2016

兄の死をきっかけに、故郷へ戻る男。
過去の出来事と向き合わざるを得なくなった彼は、日常を続けながらも、深い喪失を抱えたままでいます。

時間は流れますが、感情は整理されず痛みは形を変えて残り続けます。

主人公は前に進もうとしますが、進めない理由もまた、明確に存在しています。
克服できないものを抱えたまま生きるという選択が、ここでは否定も肯定もされず、ただ事実として置かれています。

“I can’t beat it.”
—— どうしても、乗り越えられないんだ。

その言葉が語るのは、弱さではなく、現実。
越えられないものを抱えたまま生きることも、人生の一部なのだと静かに示す言葉です。

パーフェクトデイの男性
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