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​ピラティスは痩せる?

ウエストの測定している50代男性

​「ピラティスは痩せますか?」

この問いは、ピラティスに関する質問の中で常に上位に挙がるテーマです。SNSではスレンダーな身体でピラティスを行う人の姿が多く投稿され、それが「ピラティス=痩せる」というイメージを強めています。

しかし、もし「痩せる」を“体重が減少すること”と定義するなら、残念ながらピラティスだけで大きな体重変化を起こすのは科学的に難しいというのが現実です。
とはいえ、ピラティスがダイエットに不向きかというと、むしろその逆です。長期的に“痩せやすい身体と生活”をつくるという点で大きな強みがあります。

​もっとも興味のある問い

​1. 体脂肪1Kgは、約7,200Kcal

 

体脂肪1Kgを減らすには、約7,200Kcalの「消費カロリー > 摂取カロリー」の差が必要になります。
これは複数の研究・運動生理学の教科書で採用されている標準的な数値であり、“体脂肪の変化は一気に起きるものではない”という事実を示す基準となっています。

つまり、体脂肪は「今日の運動ひとつ」で、すぐ落ちるものではなく、日々の食事・活動量の積み重ねによって少しずつ変化するものだと言えます。

ハンバーガーとチーズ

2. ピラティスの消費カロリーはどの程度?

 

信頼性の高い研究では、次のように報告されています。

体重60Kgの人が60分動いた場合

・マットピラティス(中級):約180〜250kcal
 
Olson et al., 2011, Journal of Strength and Conditioning Research

・リフォーマー(中〜高強度):約250〜350kcal
 
Segal et al., 2004, Medicine & Science in Sports & Exercise

 

ピラティスの運動強度は、「ウォーキング〜軽いジョギング未満」に相当する数値です。
このことからも、ピラティス単体で急激に脂肪を落とすことは、エネルギー収支の観点から現実的ではないということがわかります。

Pilates for Runner

3. それでも「見た目が変わる」理由

 

体重や体脂肪率に大きな変化が見られなくても、次のような効果は一貫して確認されています。

・体幹筋力の向上

・姿勢改善

・ボディラインの「引き締まり感」の上昇

12週間の介入研究では体脂肪率の有意な減少は確認されなかった一方、体幹機能や姿勢は明確に改善していました。

Cruz-Ferreira et al., 2011, European Journal of Sport Science / Rogers & Gibson, 2009, Journal of Bodywork and Movement Therapies

 

ここからわかるのは、体脂肪が急に減るのではなく、身体の使い方が洗練され、姿勢や輪郭が整うことによって生まれる変化です。

つまり、身体の「量」ではなく「使い方」が変わることでシルエットの改善が生まれます。

ナウシカピラティスでパーソナルセッション中の50代女性

4. 姿勢が整うと日常の消費カロリーが上がる

 

ピラティスがダイエットに有効な最大の理由がここです。

姿勢が整い、体幹が安定すると、

・歩く量、歩幅が大きくなる

・疲れにくくなる

・体の余計な緊張が減る

・活動するときの抵抗感が減る

といった「生活の質の向上」が起こります。

この変化は、NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis:生活活動代謝)と呼ばれる「運動以外での消費カロリー」を押し上げ、結果的に1日の消費エネルギーを着実に増やします。NEATは1日の消費カロリーの大部分を占めるため、この変化はダイエットに極めて重要です。

NEATこそ、長期的な脂肪減少にもっとも重要な要素だとする研究者もいるほどです。

ピラティスで生活の質が上がった50代女性

5. 行動科学的視点(継続性と心理的側面)

 

ここが、ピラティスの「本当の価値」が見える部分です。

ピラティスは Body Awareness(身体意識) を高めるプログラムであり、自分の姿勢・呼吸・食行動に対する“自律的な管理能力”を引き上げます。

研究では、身体意識が高まることで次の変化が起きることが示されています。

・食事のセルフモニタリング能力が向上

・無意識の間食が減る

・食べ方のスピードや量の調整が自然にできる

・ストレス性の過食が減少

実際に、身体意識の向上が間接的に体重減少を促すケースも複数報告されています。
(Junges et al., 2021, Complementary Therapies in Clinical Practice)

 

つまり、
ピラティス自体の消費カロリーで痩せるのではなく、生活全体のセルフコントロールを高めることで脂肪が減りやすくなるというのが、実務的にも非常に現実的な理解です。

ピラティスの帰り道で談笑する女性たち

 

ピラティスは、強度だけを見れば「脂肪燃焼エクササイズ」ではありません。
しかし、次の効果が重なることで、最も“続けやすく、成果が積み上がるダイエットの土台”をつくります。

・姿勢改善

・体幹機能の向上

・NEAT(生活活動代謝)の上昇

・身体意識向上によるセルフコントロール強化

・食事・睡眠・活動量の自然な改善

その結果として体脂肪が減りやすい生活が構築されます。

 

つまり、

ピラティスだけで劇的に痩せるわけではない

しかし「痩せる行動が続く身体と心理」を最も穏やかに整える運動である

これが、科学的根拠にもとづくもっとも精確な結論と言えます。

​結論

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